昭和の大工さんに学ぶ「水盛り管(みずもりかん)」の知恵
「ちょっと高さを確認したいだけなのに、レーザーレベルを出すほどでもない。」
現場では、そんな場面が意外と多くあります。
そんなとき、かつての建設現場で当たり前のように使われていたのが、
**水盛り管(みずもりかん)**と呼ばれる道具です。
一見すると原始的ですが、この方法は今でも十分に通用する精度を持っています。
今回は、水盛り管の仕組みと、その背景にある道具の歴史を簡単に整理してみます。
― 物理の法則は裏切らない
水盛り管(現場では単に「水盛り」と呼ばれることもあります)は、
連通管の原理を利用した、極めてシンプルな測定方法です。
水は重力の作用によって、
どれだけ離れていても連続した容器の中では同じ高さにそろいます。
透明なビニールホースに水を満たします。
このとき、ホース内に気泡が残らないようにすることが重要です。
気泡があると水面が安定せず、誤差の原因になります。
作業手順は次の通りです。
この二点の印は、距離に関係なく同じ高さになります。
基本は二人作業ですが、
基準側をバケツや固定治具などに置けば、一人作業も可能です。
現在の現場では、レーザー墨出し器が主流です。
しかし、水盛り管には今でも無視できない利点があります。
当然ながら電池切れはありません。
ちょっとした確認作業のために機器を立ち上げる必要もありません。
水盛り管は、角度を測る道具ではなく、
水そのものの高さを基準にしています。
そのため、10m、20mと距離が伸びても、
原理的に誤差が増えにくいという特徴があります。
レーザーは直線でしか飛びませんが、
ホースであれば建物の裏側や、間仕切りの奥へ回して測ることができます。
この性質は、既存建物の改修工事や、狭い現場では特に有効です。
「水槽(みずぶね)」という水平確認器
ビニールホースが普及する以前、
明治・大正から昭和初期にかけて使われていたのが、
**水槽(みずぶね)**と呼ばれる道具です。
60cm~1m程度の細長い木箱に水を張ったもので、
役割としては、現在の水平器に近い存在でした。
水槽の中央付近に立ち、
箱の両端の水面を、いわば「のぞき窓」のように使って遠方の柱を片目でのぞきます。
延長線上にいる弟子が柱に印を付けることで、
その場の水平基準を外へ写していく、という方法です。
現在の感覚で見ると、かなり職人技の世界ですが、
当時の現場ではごく普通に行われていました。
道具は変わっても、担っている役割は大きく変わっていません。
| 昔の呼び名 | 現代の道具 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 水槽(みずぶね) | 水平器 | その場・そのスパンで水平を確認する |
| 水盛り管 | レーザーレベル | 離れた二点間、建物全体の高さをそろえる |
現在でも、レベルや測量機器を使って高さを決める作業を、
まとめて「水盛りをする」と呼ぶ現場があります。
道具はレーザーに変わっても、
高さの基準が「水の性質」にあるという考え方は、
今も言葉の中に残っています。
ピラミッド建設でも、地面に溝を掘って水を流し、
敷地全体の水平を確認したという説があります。
「水は高いところから低いところへ流れ、
最後には必ず同じ高さに落ち着く」。
この単純な物理現象を、測量機器のない時代から現場に取り込んできたこと自体が、
建設技術の一つの原点なのだと思います。
実際の準備の仕方は、次のように教わりました。
※途中で水がこぼれたりすると、基準が変わってしまうため、
作業終了後にもう一度確認するのが大事だそうです。
作業が終わったら、
ホースの途中が細くなっていたり、流れが悪い部分に水が残ると、
冬場は凍結して使えなくなってしまいます。
こうした後片付けまで含めて、水盛り管の道具なのだと教わりました。
「水平」とは文字通り”水の平らさ”なんですね。