「講習のテキストで唯一、一気に読めてしまうページがある」
建築士の方なら、3年に一度の法定定期講習でそんな経験はありませんか? 膨大な法令や制度の解説が続くなか、唯一手が止まり、じっくり読んでしまうのが「紛争事例」のセクションです。
今回は、その講習テキストの元ネタとも言える、建築士必読のリスクマネジメント本『建築士業務の紛争・保険・処分事例』を詳しくご紹介します。
編著:公益社団法人 日本建築士会連合会(建築士業務責任検討部会)
発行:大成出版社
刊行:2014年3月
価格:3,300円(税込)
公益社団法人日本建築士会連合会が、実際に発生した過去の紛争事例、損害賠償請求事例、行政処分のケースを独自に分析・分類し、防止策とともにまとめた1冊です。
専門書といえば難解な法解釈や法律用語が並ぶイメージがありますが、本書の最大の特徴は「生々しい実例の宝庫」である点です。
ページをめくると展開されるのは、まるで怪談話。ただし幽霊ではなく、「日常のちょっとした隙」から数千万円の賠償金や業務停止処分へと転がり落ちていく建築業界のリアルな恐怖が描かれています。
紛争事例(設計・監理上のトラブル)
耐震性の不備や斜線制限の見落としなどの設計エラー
雨漏りや結露といった防水・納まりの欠陥
工事監理での施工ミス見落とし
「見込額と実際の工事費の大幅なギャップ」による施主との泥沼化
保険事例(賠償リスクと適用のリアル)
「けんはん(建築士賠償責任補償制度)」などの保険が実際どう適用されたか
「どんなケースで保険が下りなかった(免責になった)か」の痛烈な事例
処分事例(ペナルティの現実)
名義貸しや構造計算書の確認不徹底
建築士法違反による「業務停止」や「免許取消」の生々しい実例
単なる「他人の不幸話」で終わらないのが本書の価値です。読み進めるうちに、自らの実務姿勢を強烈に反省させられます。
悪質な不正だけでなく、「多忙による確認不足」や「職人・施主との連絡の行き違い」など、どの事務所でも今日起こり得る些細なミスが引き金になっています。
紛争の多くは、技術的ミス以上に「言った・言わない」の説明不足から起きています。契約時の説明義務や、変更事項の書面化がいかに自分を守るか痛感します。
「賠償保険に入っているから安心」と思いがちですが、過失割合や免責事項によってはカバーしきれない事例も掲載されており、保険の限界を知ることができます。
「事件の発生 → 問題点 → 裁判・保険の判定 → 再発防止策」がコンパクトに構造化されているため、事務所のチェックリスト改善や社員教育にそのまま活用できます。
定期講習の退屈しのぎにパラパラと読み始めたつもりが、気づけば自分の契約書やチェック体制を見直さずにはいられなくなる——そんな強烈な説得力を持った本です。
自身の設計・監理フローに不安がある方
これから独立・開業を目指す建築士の方
スタッフのリスク管理意識を高めたい事務所経営者の方
「建築士として長く安全に仕事を続けていくための予防薬」として、手元に置いておいて損はない一冊です。気になった方はぜひ一度開いてみてください。背筋がスッと伸びる感覚を味わえるはずです。