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応急危険度判定訓練で見かけた「PC構造」―プレストレストとプレキャストの違いとは?

PC構造って何?

―応急危険度判定訓練で出会った「プレキャスト住宅」―

2026年3月11日、令和7年度の応急危険度判定模擬訓練が大崎市で行われました。

判定会場として用意されていた建物は、二階建ての長屋住宅が二棟。
ただし、調査票の様式の関係で 「木造」 として判定調査を行うことになっていました。

ところが実際に建物をよく見ると、どうも様子が違います。

どう見ても木造ではありません。
おそらくこれは 「壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造」、いわゆる PCa壁式RC造 の建物のようでした。


PC構造って何?

建築の世界で「PC構造」と聞くと、
「プレキャストコンクリート構造かな?」
と思う方も多いかもしれません。

しかし、実は 厳密には違います。

私がよく参照している本に

『現場必携 建築構造ポケットブック』(共立出版)

があります。

最初に手に取ったときは

「こんな難しい本、意匠設計者が持つ意味あるのかな…」

と思ったのですが、今ではすっかり手放せない一冊です。

この本の「PC構造」のページを開くと、いきなり次のような項目が出てきます。

  • 材料の品質

  • プレテンション方式

  • ポストテンション方式

  • PC鋼線

  • 異形PC鋼線

つまりここで言う PC構造とは

プレストレストコンクリート構造(Prestressed Concrete)

のことなのです。


プレストレストコンクリートとは?

プレストレストコンクリート(PC)は、

コンクリートの弱点である

「引張力に弱い」

という性質を、あらかじめ圧縮力を与えることで克服した構造です。

簡単に言うと、こういうイメージです。

コンクリートの中に高強度の鋼材(PC鋼材)を通し、
それを引っ張った状態で固定します。

するとコンクリート全体に

ギュッと押しつぶす力(圧縮力)

が常にかかった状態になります。

その状態で荷重がかかると、本来発生するはずの引張力が
この圧縮力によって打ち消されるため、

ひび割れが起きにくくなる

という仕組みです。


PC構造のメリット

PC構造には次のような特徴があります。

大空間が可能
梁を細く長くできるため、体育館や橋梁などのロングスパン構造に向いています。

耐久性が高い
ひび割れを制御できるため、鉄筋腐食が起きにくく長寿命です。

部材を小さくできる
断面を小さくできるため、建物の自重を軽くできます。


PC構造のデメリット

一方でデメリットもあります。

コストが高い
PC鋼材や定着具、専門的な施工技術が必要になります。

後から改造しにくい
PC鋼材が緊張しているため、
完成後のコア抜きや改造が非常に難しくなります。


では「プレキャストコンクリート構造」とは?

ここで最初の疑問に戻ります。

今回の訓練で使われた建物は、
どう見てもプレストレストコンクリートではありません。

そこで参考にしたのが

日本建築学会
「壁式鉄筋コンクリート造設計基準・同解説」

です。

この本の「適用範囲」には次のように書かれています。

本基準は、地上階数5以下、かつ軒の高さ20m以下の建物の構造設計に適用する。

(1) 現場打ち鉄筋コンクリート造(RC造)
(2) 壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造(PCa壁式RC造)

つまり、

工場で製造したコンクリートパネルを現場で組み立てる構造

これが

プレキャストコンクリート構造

です。


こんな古い建物にPCa?

判定会場となった長屋住宅は、かなり古い建物でした。
完全な空き家で老朽化も進んでいます。

「こんな昔からプレキャストコンクリートってあったの?」

と思う方もいるかもしれません。

しかし実は逆で、

昭和40〜50年代の公営住宅では、むしろ花形の工法でした。


高度経済成長期の住宅革命

当時の日本は深刻な住宅不足でした。

そこで住宅公団などが採用したのが、

プレキャストコンクリートによるプレハブ化です。

壁や床のパネルを

工場で大量生産 → 現場で組み立て

することで、

早く・大量に住宅を建設する

ことが可能になりました。

代表的なものに

  • WPC工法(壁式プレキャストコンクリート造)

  • 傾斜壁PC工法

などがあります。

これらは 2〜5階程度の集合住宅に多く使われました。


見た目の特徴

PCa住宅は、ブロック造と間違われることがあります。

しかし実際には

大きなコンクリート板(パネル)

を組み合わせて構成されています。

規模は小さく見えても、

木造在来工法とはまったく別の構造

です。


判定のときは要注意

今回の応急危険度判定では、
調査票の関係で木造として判定を行いました。

しかし実際の構造は

壁式プレキャストRC造

の可能性が高い建物でした。

もし本当の災害時に
構造を誤認したまま判定してしまうと、

調査方法そのものが変わってしまう可能性

もあります。

実際の建物をよく観察することの大切さを、
あらためて感じた訓練でした。